脚が生えてきた!
「子ども時代」の記憶、第2弾。
先日、傷痍軍人について少し触れたが、これは1962年か63年の池袋でのこと。
ある友だちが「東口に、いんちきしょうい軍人がいる」という。
この情報は確かめられなければならない。
私たちは、たぶん小3だったとおもう。
池袋からは西武線で1つ目の「椎名町」からだと歩いていくのは少したいへんだ。
だが、そこは正義のためだ。
だから、誰からも文句1つもでなかった。
でも、正義の実現には時間がかかる。
東口に着いてから、それらしい「いんちき野郎」を物色するも、該当者が誰なのかは、皆目わからない。
時間だけが経過する。
それなりの雑踏にいるだけでも疲れるのだ。それが椎名町の子どもというものだ。
それが長時間で、しかも、今回の遠征には大義がかかっている。
だから、その分かなり疲れた。
もう帰りたい。
だが、誰もそれをいいだせない。
そんな状態のときに、ある傷痍軍人が動いた。
かれには「うさん臭さ」は感じられない。
だから、かれを追っても、たぶん徒労に終わるはずだ。
それは誰もが判っていたのだ。
「動いたぞ!」
私のこの一言で、我が部隊は追跡を開始した。
松葉杖を左脇にして、かれは歩く。
コツコツ、雑踏の騒音は消えた。
少年探偵団も、かれの後ろを移動する。目白方向だから、かれの住処はたぶん「びっくりガード」近辺だろう。
「気づかれるなよ!」
(誰の声だ? 隊長はオレだろうが!)
かれの足取りは規則的で、乱れる予兆もない。
左足のズボンは膝の下で結ばれて、歩調と共にユルユルと揺れている。
裏道に入った。
私たちは気づかれないように待った。
(まだ、曲がってはいけない。 かれの歩幅であれば、決して遠くにはいけないはずだ。)
そして、時が満ちた。
私たちも角を曲がった。
かれが両足で立っている。
エェェェェェェェェェェ!!
かれに左足が生えている!
我が目を疑う前に、私は叫んだ!
「このぉ、いんちき野郎! さぎオヤジ! こいつ、かたりだぞぉ!」
かれは、私が正義の弾劾を終える前に、もうすごい形相だ。
しかも、動きも俊敏だ。
松葉杖を片手で持ち上げながら、こちらに向かって走りだしている。
速い。
さっきとは比べものにならない。
友だちはギャァァァァと叫んで、私よりも先に逃げていく。
(殺られる!)
この時、私はみんなとは逆方向の雑踏に向かった。
奴が追っているのは私だ。
「みなさぁーん! このオヤジは偽者ですよ!」
私は「人民の海」へと泳ぎはじめたのだ。どうだ、この海の快適さは。
敵は、ここまでは入ってこれない。
ホレホレ ホレホレ
「ほぉら、ここまで来いよ!来てみろよぉ!」
(勝ったゾォ!)
こうして正義の鉄槌は降ろされたのだ。
私たちは疲れを忘れた。
意気揚々。
夕飯にはまだ間に合うな。
興奮した私たちに赤い夕日がまぶしかった。
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Comments
1990年代、尼崎中央商店街では白い傷痍軍人ルックのおとうさんがまだがんばってました。グロバリゼーションか、KFCのおっさんが立ちんぼに参入してのちも、まだ立ったり座ったりしてがんばってました。あのおとうさん、どこいかはったのか。
あっ、もひとり、田端義男そっくりに着飾ったおとうさんもいました! 近所のおっちゃんら、「よーっ、バタやん!」いうてはやしてやってね、バタやんのおっちゃんも「よーお」とかその気になって手ぇ上げたりしてね。あの人らも、どないならはったのか。
Posted by: かいしょー | February 23, 2007 at 04:05 PM
コメントに深謝。
ちょっと驚いたのは、かいしょーさんが「田端義男」を生き生きと把握していた点ですね。子ども時代の私にとってすら、「かれ」はそれが本人でもかなり「妙」にみえましたから、「街場のおとうさん」の衝撃波は如何ほどかと、おもわず想像してしまいます。
Posted by: harie | February 23, 2007 at 06:50 PM